2014年09月

人の目の進化

博物館や資料館、美術館といった展示施設に行くと歴史的に価値のある装身具を見かけることがあります。それは石器時代のネックレスであったり、古代王家の王冠であったり、はたまた中世ヨーロッパの絢爛豪華な指輪だったり。
ここでふと職人の目線で見てみると、石器時代の豪族の物だったというネックレスはなんとも粗雑で石弓の鏃(やじり)のようです。古代王家の王冠に留められているエメラルドは色も悪く内包物も多い、今ならきっと鉱物見本か何かにされてしまいそうな酷いエメラルドでした。中世の指輪、真ん中に留まっているアメジストは大きいですが、周囲に留められている小さな透明石は全て質の悪いトパーズで、枠はシルバー。現代ならそんなに高価な品ではないでしょう。
ですがこれらの品は、作られた当時には一部の高貴な階級の人にのみ使われていた貴重な宝飾品です。素材的にも技術的にも一級品だったことでしょう。それでも今となっては(歴史的な価値を除けば)とてもチープな印象になってしまいます。
当然ながら歴史とともに技術は進歩し、より価値のある素材が発見され使われるようになって今日のジュエリーがあるわけですが、そこにはそれを見る人間の「目」の進歩も大きく影響しているような気がします。良い物に見慣れてくると、より良い物を求めてしまうのは自然なことです。それに応えようと研究し努力した職人達が、次の時代の一級品を作り上げてきたのです。
歴史のあるジュエリーも魅力的ですが、きっと未来の一級品は凄いんでしょうね。その未来に、目の肥えた人達から認めてもらえる技術を持っていたい。日々の努力と研究は大切です。

(2014.9.29[Mon])

色々な金

ホワイトゴールド、ピンクゴールドなどイエロー以外のゴールドカラーが流行っていますね。
ホワイトゴールドは見た感じはプラチナのようですが、手に取るとプラチナより比重が軽いので思いの外軽いです
プラチナに比べると、単価が低いのでプラチナと同じデザインの物でもホワイトゴールドのほうが安価です。最近は金が高騰したせいもあってK18WGぐらいだと値段に差がでないのでK14やK10を使ったりしています。
地金代を下げることでデザインや凝った細工など多種多様なデザインの物が作れます。
イエローゴールドは金に銀と銅を混ぜた合金です。ホワイトゴールドは金にパラジウム(パラ割)、またはニッケルを混ぜた合金です。パラ割の方はパラジウムが白っぽいので少し曇った感じの銀色に、ニッケル割はニッケルが黄色っぽいの少しくすんだ金色になります。その為ホワイトゴールドの地の色は、少しくすんだ色になってしまうので多くの商品には主にロジウムメッキが施されています。パラ割の場合は地の色で商品展開しているブランドもあります。
ロジウムメッキをかけるプラチナに近い光沢を得られる事と、変色しにくくなるという利点がありますがあくまでもメッキなので使用頻度によっては仕上げ直しの後メッキの掛けなおす。というメンテナンスが必要になります。
ピンクゴールドは名のとおりピンク色をした金です。イエローゴールドと同じく金に銀と銅を混ぜた合金ですが銅の割合を多くするとピンク色になります。基本メッキは掛けません。 銀と銅のピンクゴールドなら加工やサイズ直しなど可能なのです。ほかに、昔キャスト(鋳造)の地金として使われ、発色の良いピンクゴールドとして流行ったパラジウム割りのピンクゴールドがありますが、熱を加えたり強い衝撃を与えると地金が割れてしまうため加工に向いていません。その為か最近では見かけなくなってきました。ピンクゴールドの作業前にはこの割金の確認が大事なのですが見た目でしか判断できないので少し職人泣かせな地金です。
ホワイトゴールドもピンクゴールドもK○○と刻印してあれば立派な金です。
特徴を知った上で購入やメンテナンスしていただけたらと思います。

(2014.9.16[Tue])

ルーペ

ここ数年お客様の商品に対しての仕上がりに関して、ご希望がかなり高いレベルになってきたように思えます。
それに対応してというのもありますが、最近検品用のルーペを新調しました。
まぁ、年齢的なこともありまして近くを見るのが少々辛いのと、震災以来節電のため仕事場の照明を少し落としているのもあるんですが(笑)。
さて、普段私共が使っているルーペは8倍位の繰り出し型というものですが、これだと必ず片手はルーペを持たなくてはなりません。
片手に商品を持ってもう片方の手にルーペを持って検品をしていると、もし商品に傷などが見つかった場合マークするのにちょっと不便ですね。
なので、今回新調したのはヘッドルーペというサンバイザーみたいに頭に固定するタイプです。
良く探検隊の人たちがおでこにつけてる照明みたいな形のものです。
当初は外科医が手術に使うサージカルルーペというのが欲しかったのですが、これはとても高価でいきなり手に入れるのにはかなり抵抗のある物でした。
ヤフオクで中国製の数百円で買えるタイプのヘッドルーペがあったのでこれを試しにゲットしてみましたが、意外や意外使える物で両手がフリーになるので検品中にマークも楽ですし、レンズを換えれば好みの倍率に出来ます。
理想を言ってしまえば先ほどのサージカルルーペが作業距離(レンズ先端から対象物までのピントの合う距離)が約30センチなので非常に具合が良さそうですが、用途がちょっと違うので、結局は自分で作るか弄るかしないと使えないかもなので取り敢えずこれで頑張ってみようと思ってます。
道具で仕事が劇的に変化する事って結構ある物で、鋸をスイス製の少々値の張るのに換えた時もそうですし、ヤスリもポルトガル製のスウェーデン鋼を使った物に換えた時もヤスリ掛けがとても楽しい物になりました。
こういった投資はケチらないのが良いようです。

(2014.9.8[Mon])

本屋

先日、本屋に立ち寄った時に、気まぐれに宝飾品の本を見てみたのですが、本の中には普段はあまり目にしないデザインの物がたくさんあって、ちょっと新鮮な感じがしました。

普段の生活では鏡面に仕上げられた製品というのがかなり多いので、表面の仕上げをいろいろと工夫して作られたものというのは、「アリだな。」と思わせる何かがあります。
鏡面の製品には鏡面の製品の良さがあるのはもちろんですが。

修理の仕事の中にも、全体数では少ないものの、艶消しの仕上げの物は時々あります。
表面には魅力的なテクスチャーが施されていて、それと同じテクスチャーをつけるのに、道具を探し当て、使い方を考えるのは少しだけ探偵の様でもあります。
サンドペーパーから、スチールタワシ、金剛砂・・・などなど、考えたらきりがない位たくさんの中から、これだと思う物を選び出し、そしてそれが使われたであろう方法でテクスチャーをつけてみると、意外にも・・・違うのです。
なかなか、一発で見つけるというのは難しいものでして。

そして、その工程を何回か繰り返し、最終的に近いものを選びます。
経験を重ねて、少しずつ短い時間でそのテクスチャーを発見できるようにはなるものの、いつかは一発で見つけられる「宝飾界のシャーロックホームズ」になりたいものです。

(2014.9.1[Mon])


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